沼津で座禅を体験したい【沼津でやりたい100のこと】

沼津市街から旧東海道を通ると、道沿いに何軒か寺院の看板がある。西に向かってそのまま車を走らせて大塚まで進むと、長興寺の看板が。思いの外わかりやすかった。

午前7時前、駐車場に車を停め、長興寺の門をくぐる。部屋を案内してもらい、中に入ると、柔らかな笑顔で迎えてくださった座禅メンバーの方々が。献金は必要か聞くと、「初めてなのでいいですよ。」と。月に一度、気持ちだけお布施をするのだそうだ。

住職が来るまでの間も、自主的に各々が座禅を初めていく。見よう見まねで座禅を組みながら、今回の主役、座禅を体験したいという4人の外国人の方々を待つ。

7時を過ぎたあたりから、本日のゲスト、アメリカ人のドリュー さん、アリシアさん、チャーリーさん、スコットランド人のカースティンさんがやってきた。普段彼らは、県内の公立高校でALTとして英語を教えている。朝早い中、笑顔で入って来たのが印象的だった。軽く会釈をして、空いている席で座禅を組む。

英語が堪能な住職、松下宗柏氏が、まずは座禅について優しく教えてくださった。般若心経や座禅について英訳された冊子も配られた。4人共、真剣な表情で話を聞きながら、座禅を組む。

松下氏は、「丹田は宝」と達磨を持ち、腹部を触りながら説明していた。丹田は、へそ下約10cmあたりにある部分で、座禅を組みながら、息を吐くときに力を込める場所だ。ヨガの呼吸法に通じるものを感じる。

「丹田によって呼吸をすることを意識して下さい。そうすることで、エネルギーのバランスを保つことができ、心が穏やかになります。『丹田』。よく覚えてください。」と穏やかに英語で説明した松下氏。4人は深く頷いていた。

達磨は七転び八起きといって、転んでも起き上がるバランス感がある。ところが、試しに達磨を転がしてみると、起き上がらないハプニングが。「彼には座禅が必要ですね。」と言って笑いが起こり、場が和んだ。

まずは、皆でお経を唱える。その後はいよいよ座禅だ。

鼻呼吸をして、口を閉じる。ムードラ(座禅を組むときの手の形)は、丹田の前に右手を置き、その上に左手を乗せる。目は閉じず、半開きにし、鼻の頭を見つめるように。約2時間、座禅は続いた。途中、経行(きんひん)といって立ち上がって部屋の中を回る時間があり、動きの中で、脚を緩めて伸ばし、座禅の呼吸を保つ時間や、背中を叩いてもらう警策(きょうさく)の時間があるため、けじめが感じられて座禅を苦に感じずにいられた。

最後に般若心経を唱える。ローマ字表記の冊子が配られたのでとてもわかりやすい。普段お経に親しみのない日本人の筆者も、漢字より読みやすく皆についていけた。

座禅の後、ドリュー さんは、「座りながら集中することは難しいと思ったが、意外にも集中することができた。」と話した。「どんなときに集中できましたか?」と訊かれ、「吐く息に!」とドリュー さんがにっこりと答えると、「素晴らしい!吐く息に集中することが大切です。」と松下氏。続いてアリシアさんとカースティンさんは、「リラックスできた。」チャーリーさんは、「背筋を伸ばすことを意識しました。」と感想を話していた。

また、この日は4月8日、お釈迦様の誕生日の花祭りということで、春と秋、年に2回しか開かれない茶室でお茶をいただいた。表千家の作法で、茶室には墨跡、生け花、お香が飾ってあった。

墨跡には「暁元木花」と書いてあり、松下氏の解釈では、「暁の元に、木や花が生えてくる」というものだった。

また、生け花は、豊臣秀吉が小田原攻めをしたときに、韮山に生えていた竹を生けたことがはじまりの手法で、今回も野花や竹が生けられていた。

お茶碗には、利休七種といって、千利休が7人の弟子のために作ったもののうちの一つが選ばれた。本物は残っておらず、その写しが使われた。

お菓子は、春の花冷えの季節をイメージした牡丹の花を表現したものが出され、淡い色遣いの繊細な形は言葉を失うほどに美しかった。

お茶碗を真剣に眺めるカースティンさんに感想を尋ねると、「上半分の淡い色遣いと、下半分のはっきりした色遣いのコントラストが美しい。ちょうど半分の間に親指をかけられるくぼみのようなものがあって、安定して持てる。」としみじみと眺めながら語っていた。

茶道では、先にお菓子をいただいて、後に苦味のあるお茶を飲み、そのシンフォニーを楽しむ。体験しながらじっくりと雰囲気に浸ることができた。

最後は本堂へ拝みに行き、大きな達磨で松下氏のリベンジ。達磨をもう一度転がしてみた。今度は達磨が起き上がってくれて、無事、会を終えることができた。

セカセカした現代社会から離れてゆったりとした時間を過ごせた午前のひとときだった。土曜日は7時半から、日曜日は7時から座禅を体験できる。お茶室は普段は非公開だが、座禅の後は煎茶でカジュアルなお茶会も開かれる。週末に早起きをして、呼吸を整えて平日に備えるのもいいかもしれない。人里離れた山奥まで行かなくても、旧東海道沿いのアクセスの良い場所に、俗世間から離れた別世界が広がっている。忙しい人ほどおすすめしたい座禅体験だった。

 

 

 

 

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